きたはら邦画

午前0時の旧作日本映画案内

『ジャコ萬と鉄』(1949・49年プロダクション)

舞台は厳寒の北海道、ニシン漁場。片目の無法者ジャコ万と、弱い漁夫たちを助けるために立ちあがった網元の息子・鉄。梶野悳三『鰊漁場』を原作に、男の世界をダイナミックに描きあげた谷口千吉監督の代表作の一つ。

ラピュタ阿佐ヶ谷ホームページより引用)

 

監督:谷口千吉

出演:三船敏郎/月形龍之介/浜田百合子/久我美子/進藤英太郎/藤原釜足

ラピュタ阿佐ヶ谷では25周年企画「ニュープリント大作戦」が開催中である。

www.laputa-jp.com

ラピュタ阿佐ヶ谷さんの偉業、自費でニュープリント作品群を一挙公開。ありがたいです。

『ジャコ萬と鉄』はいつか必ず観なくてはと思っていた作品だった。観終わって、「なんでいままで観てこなかったんだ!」と悔やむほどの傑作だった。

昔北海道の漁船で働く人々の舞台に出演することがあった(実はわたくし元俳優でして)。そのとき、演出家に、「時代は違うが雰囲気をつかむのに『ジャコ萬と鉄』を観るといい」とアドバイスをもらった。しかしそのときの僕は、『ジャコ萬』を観なかった。近所のレンタルビデオ屋になかったし、そもそもそこまでインターネットが普及していなかったので、探す気力が起きなかった(そんなんでよくやってたもんである)。

というわけで、それから十数年たち、お世話になった演出家も亡くなり、もうすっかり忘れかけていた(たまに思い出すのだけれど、若い頃にやっていて、とうに諦めた物事ってのは懐かしく思い出すのには個人差あれど時間がかかるので、押しやっていた)この作品を観ることになった。

 

最初に書いたけれど、傑作だった。脚本には黒澤明も共同でクレジットされている。話の運びが90分でしっかりまとまっていて、無駄なところがまったくなく(と素人ながらに)感じられた。

ニシン場に毛皮の靴を履き片目の男「ジャコ萬」がやってくる。ニシン馬の頭、九兵衛にかつて、どさくさにまぎれて船を盗まれたのだ。九兵衛「血の涙を流す」のを待っている。それと同じくして、死んだと思われていた九兵衛の息子、「鉄」が帰還する。

鉄を演じる三船敏郎がとてもいい。快男児である。見栄えも良く、色気とユーモアがある。街の教会の女の子に恋をしていて、ただただオルガンを演奏している彼女を遠くから見つめている。

ジャコ萬と鉄は取っ組み合いをするわけだが、雪山に放られた鉄が起き上がり、口から雪の玉を吐き出すところ、親父におこられ、一瞬顔をぎゅっとしかめるそぶりなどなど、とにかく観ていて飽きないし、注目せずにいられない。

ていうかかっこかわいい!

ジャコ萬を追っかけてきた女、流れ者の「大学生」、そしてニシン場の九兵衛の一家など、濃いキャラクターたちが極寒の地で生命の炎を燃やし生きている。

ああ、なるほど、こういう佇まいなんだなあ、と、今更思う。

さて、給料が安くストを起こした出稼ぎの男たち、ニシンが湧いてきた、いまいかなくてはこれまでの苦労が水の泡だ、ジャコ萬は、鉄はどうするのか?

すべてを終えて去っていく人々。ニシン漁の季節は終わった。

最後の鉄の姿。いやー、三船敏郎、いい男であるよ。

 

(ちなみにU-NEXTには深作欣二リメイク版がありました。こちらは高倉健丹波哲郎