きたはら邦画

午前0時の旧作日本映画案内

『最高殊勲夫人』(1959・大映東京)

杏子は、ごく普通の家庭・野々宮家の三女。三原商事の社長・一郎と結婚している長女・桃子と専務・二郎と結婚している次女・梨子は、三原家三兄弟の三男・三郎と杏子を結婚させようと画策する。勝手に進められる結婚話に腹を立てた杏子は「断然結婚しない」と宣言したが、いつしか相手を意識するように……。(Prime Videoより引用)

 

 

監督:増村保造

出演:若尾文子/川口浩/宮口清二/滝花久子/亀山靖博/丹阿弥谷津子/船越英二

「きみをレモンスカッシュみたいな娘だとすると、彼女はハイボールのダブルかな」

レモンスカッシュみたいな女とハイボールみたいな女、どっちがモテるか? 

答えはどっちも、である。でも、「あなたの恋人ってどんな人?」と訊ねられて、こんなふうにさらっと答えられる男。ま、すかしているともいえるが、質問相手への好意と敬意も窺える洒落た返答である。

主人公はあるサラリーマン家庭の三女。姉さん二人は三原商事の息子たちと結婚。なんとなく三原商事の三男坊に好印象をもつものの、「僕はもてるから」「恋人はいる(会社の令嬢である)なーんていうやつの手前、「私だって付き合っている人がいる」と嘘をついてしまう。そもそもが、一番上の姉さんが、無理やり三男三女も結婚させようなんてするから、意地を張ってしまう。

この作品は、セリフが洒落ているのだ。源氏鶏太のユーモア小説が原作だから、でてくる人物たちもどこか、間がぬけていて愛すべき人物たち。そう、見事に悪人がいない! 

いちおうの悪人役、姉妹全員を三原商事の男子と結婚させて、「世界制覇」(親族を征服して頂点に立とうって意味)を企む長女ですら、おかしみがある。

全員が全員、ユーモアと知恵で困難を切り抜けようとする。平気で洒落たことをいい、間抜けな失敗をしたら、きちんと慌てて愛嬌で切り抜ける。なんとなく、いま(2023年)に必要なスキルな気がする。

嫁に会社のことも口出しされて尻に敷かれている三原家の長男も、浮気という「抵抗」、最終的に男の威厳を(?)を発揮しようとするが、

「桃子(長女)をぶんなぐってやる! ……それからキスしてやる」

なんて、なかなかなものだ。

初めての会社勤め、求婚する男たち、姉妹兄弟の事情、父の思い、そんな小さな世界のさまざまな思惑が入り乱れながらのハッピーエンドは楽しい。

もちろん二人は結婚する。とかいてもネタバレにはならない。観ている全員が「結婚するんだろうな、すりゃいいのに」という幸福な気持ちで観ていられる。

応援というより予感がある。

ところで、若い頃の川口浩って悪くない。なんとなく芝居をしているんだかしてないんだか、本気でやっているのか適当なのか、そんな「若者らしい」芝居をする。

「好きで好きでたまんねえんだよ」

「それ本当?」

「こんな嘘がつけるかよ」

「わたしもなのよ」

「あなた大好きよ」

「聞こえないよ!」

「結婚したいわ。前から結婚したかったのよ。だって好きなんだものあなたが」

離れた席で、声を張りながらの告白、なんて洒落てるんだ(笑)。

ラストのハイチーズ、ぜひ観ていただきたい。幸せと、そしてそれを隠そうとするとき、人は変顔をキメる。

ロマンティクコメディってのは、悪くない。

タイトルの意味は、まあ最後のお楽しみである。

カクヨムより転載)