きたはら邦画

午前0時の旧作日本映画案内

『妻は告白する』(1961・大映)

穂高の岩壁で遭難した三人のパーティー。岩にしがみついた若い男の体に宙吊りになった二人の体重がかかる。一番下に夫、真中に妻、そして若い男は妻の愛人。妻はナイフを取り出しザイルを切り離す。妻と愛人は助かり事件は法廷へ持ち込まれる。殺人か!自己防衛か!夫にかけられた五百万円の保険金。妻と愛人の情事の確証、果たして有罪なのか、無罪なのか!?微妙に動く女心。法とモラルと真実を追う増村保造監督、若尾文子主演の異色の文芸作品。

(Prime Videoより引用)

 

 

 

監督:増村保造

出演:若尾文子/川口浩/小沢栄太郎

 

法廷で女は問われ続ける。「夫を殺そうとしたのではないか?」実際のところ、ぎりぎりの状態だ。ザイルを切らなくては自分も死んでしまう。そして、人々は「若い男に狂って夫を殺した女」と好奇の目を向ける。

彼女自身のこれまでの人生は、貧しさに喘ぎ、夫をなんとか愛そうと試み続けた過酷なものだった。若い男は同情の目を向け、それを愛だと思う。女は無罪となり、そして男との新しい人生にはしゃぎだす。その姿は若い男を幻滅させる。そして別れ。これからの未来が無惨にも途切れた時、女は。

若尾文子がとてもいい。ときおりぞっとするような色気と表情をする。そんなとき、観ているものは解釈不能の境地に立たされる気がする。

無罪となり、夫の保険金で新しく二人で暮らす部屋を勝手に決めてしまったときの若尾の弾んだ顔。

雨の中、川口浩の会社を訪れ、ずぶ濡れになったときの佇まい。川口を見つけたときのおじぎ。

観ていて、強烈な居心地が悪さ。いや、ぞっとする。

いや、こんなシチュエーションだったら恋愛ものでたくさん観てきた。だから同じように、「女って怖いな」で済むはずなのに、そうはいかない。

女優とはなんて恐ろしいものだろう。格が違う。

自分がそんな化け物のような人と向き合わなくてはならなくなったら、ぞくりとしてしまうだろう。いや、恐怖で逃げ出してしまうのではないか。

「あなたは誰も愛さなかった。奥さんはあなたを命懸けで愛したのよ」

川口に捨てられ、自殺を図った若尾。そのとき、川口のかつての婚約者が言う。情ではなく、愛。

よく言われることだが、増村保造の作品の若尾文子は、愛というものを体現する。それは、通常われわれが生ぬるく思っているものとは違う。一心に、身を投じる。そこに未来とか過去すらもない。ただ、いまを生きて、相手にぶつかっていく。

本当の愛、を受け止める覚悟も技倆もない、準備なんてできないまま、男たちは、自分自身と向き合うことになる。

自分にとっての「愛」とはなんなのか、と世の男にとって一番、向き合いたくない土俵に立たされることになるのだ。

カクヨムから転載)