俳優の演技について語っている本が好きです。
こだわりを垣間見ることができると、おおっ、と思う。
高峰秀子はさまざまなエッセイで、自分の役作りについて語っている。こちらの本は、文庫のうしろの説明にあるように「五十年の女優人生で体得した役づくりの奥義」が語られている。
奥義はもちろん気になるが、この本をぜひ読みたかったのは、宝田明について語られた箇所だった。
宝田明、めちゃくちゃ贔屓にしているのだ。
宝田明が自身の本で語っているように、『放浪記』の際、成瀬監督に何度もやり直しをさせられた。宝田は共演の高峰にヒントをもらおうとしたが、「教えてあげない」とすげなくされる。
後年、高峰が、宝田のことを書く、と電話で承諾を求めた時、宝田は、あのときの感謝を述べた、という。
項の末尾にさらりと書かれた言葉。
「演技っていうのはこうしたチョイとした工夫の積み重ねだと思うの」
とても重い。チョイとした工夫を、自分は考え抜くことができるのか、と。
この本には唯一のテレビドラマ脚本も収録されており、かなり重要な一冊である。ただいま品切れ重版未定中。ぜひ新装なり再版をお願いします。