きたはら邦画

午前0時の旧作日本映画案内

『東京の暴れん坊』(1960・日活)

銀座のキッチン「次郎」の若主人・清水次郎小林旭)は、フランス料理の名人かつ元レスリング選手の美男子。そんな次郎の大学の後輩である、銭湯松の湯、秀子の一家は、銭湯を改造して大ソープランドを作ろうとする代議士・浅井の誘惑を受けるが。(Prime Videoより引用)

 

 

監督:斎藤武市

出演:小林旭/浅丘ルリ子/中原早苗/藤村有弘/近藤宏/小沢昭一/小川虎之助

待ってましたの小林旭である。やっぱり石原裕次郎小林旭は日活のなかでも格が違う。その主演本数も人気も。

フランスの大学を留学したけれど、パリで飯を食っているうちに学者になるのはやめて、実家の洋食屋をついでいるやたらきっぷのいい男である。役名だって清水の次郎長もじってるしさ。

風呂屋の娘の浅丘ルリ子は「もちろん」旭のことが好きなのだが、まあなんとなくラブコメ風味を匂わせつつ仲良くやっている。女の子にぐいぐいこられてちょっと困ったなんて顔も、楽しいところ。

そして小林旭の男振りが見どころなので、風呂屋で歌えば女風呂のほうでは大騒ぎ。モテモテ。というか銀座の女たちは全員旭が大好き(笑)。

この作品は「いかす」「かっこいい」物語展開でなく、珍しく、女風呂の喧嘩の仲裁をしているときに、はらりと腰に巻いたタオルが落ちて、「あ」なんてコミカルな調子ですすむ作品。

そう、主人公に暗い影がなくさっぱりしているのだ。こういうヒーロー的キャラクター作りは大変参考になる。

いうならば、トラウマがない男。だからこそ、安心して、かっこいいを鑑賞することができる。

旭の代表作、『ギターを持った渡り鳥』もですが、これは、スターがかっこいいことが一番重要な作品である。観客はいろんな旭が観たい、と。

小林旭にはいろんな時代がある。若手スター時代、仁義なき戦い時代、そして歌手時代、と。だが、やっぱりこの日活でモテモテ時代の小林旭が一番面白い(と個人的には思う)。

しかしまあ、この本宮ひろ志的というか(いや、こっちが先か)、どてらいぶり。大物の前でも自分を曲げず、それによって好かれてしまう、とか。まんま『サラリーマン金太郎』みたいな展開。なんかすげえ。喧嘩した相手もその強さで子分になっちゃうしさ。

問題は持ち込まれるわ出かけたところでも問題に巻き込まれるわで大騒ぎ、そしてだいたい殴り合いの喧嘩をしてる。それがいい。そして歌うとみんなの心が一つに(笑)。

往年のコメディを見ていると、「そうなるかな〜やっぱり!」みたいな展開にでくわす。そして「世界には百人くらいしか人いないのか?」くらいに偶然でくわしたり、AとBのエピソードが実は人物被っていたりする。それもまた面白い。そうでなくっちゃつまらん。

ラストの結婚式場の企みと種明かしが痛快。

最後もとてもいい。旭とルリ子はお互いの気持ちが通じているのがわかっているけれど、デートでも口論をしてしまう。だが、楽しみながら二人は去っていく。晴れた銀座。なにも悪いことはない。

観終わったとき、なんとなく、悪くないな、世の中と思わせる。爽快な物語の魔法だ。

カクヨムより転載)