きたはら邦画

午前0時の旧作日本映画案内

『二人の銀座』(1967・日活)

公衆電話での会話を終えた瀬川マコは、順番待ちをしていた大学生・木村健一に顔をそむながら表へ出た。健一はそこでマコが落とした楽譜をみつけ後を追ったが、マコの姿は既に見えなかった。お針子の乙女と学生バンドマンが、逆境の作曲家が作った曲をヒットさせるまでの恋と友情の物語。(Prime Videoより引用)

 

 

監督:鍛治昇

出演:和泉雅子/山内賢/和田浩治/伊藤るり子/小林哲子/片山明彦/木下雅弘/杉山元

あまりに好きすぎて、思わずnoteで熱い思いを綴ってしまったのですが、日活の若手俳優が組んだバンド「ヤングアンドフレッシュ」というのがおりまして、彼らが主演の言うなれば「バンドやろうぜ」ものみたいな作品があります。だいたい彼らは大学のアマチュアバンドの設定で、プロデビューしたいと奮闘しているんだけどうまくいかない。女の子の出会いによって、彼らはデビューのきっかけを掴むことに、でも……というのが大体の作品の筋である。それぞれ設定は違えど、青春明朗篇と銘打たれた作品群。

こちらの作品では、電話ボックスにあった忘れ物の楽譜を山内賢が拾ってしまったことから始まる。いつまでたっても電話をしている先客の女の子の忘れものだ。

さて、店で演奏したいと訴えるバンド連中。「プロってのは楽譜を見たらすぐに演奏できなくてはならない」と追い返され、それならと、忘れ物の楽譜の曲を演奏したら、大人気に。

その噂を知り、忘れた持ち主の和泉雅子が彼らの演奏している店にやってきて「楽譜を返せ」と詰め寄る。じつはその曲は泉の姉の恋人が作った思い出の曲だった。その恋人は業界を干され、行方不明に。

この曲を歌わせてほしい、と彼らは作曲家を探すことになる。そこに、かつて作曲家を業界から追放した人物が動き出して……。

音楽ものとはいえ、当時のミュージシャンの演奏あり、突然妄想での歌披露あり(ぜひ観ていただきたい。和泉雅子さんが最高にかわいらしいのですが、なんで突然!)と、なんとなく話がシンプルな分、大盤振る舞い。いや、どちらかといえばこの映画は、音楽を見せるために作られたのかもしれない。だからこそのさっぱりした物語展開である。これは、他の「ヤングアンドフレッシュ」ものも同様。映画館であまり頭を使わずに観ていられるようにしているとしか思えない(笑)。

それにしても彼らはとにかくばかである。というか調子が良い。その会話のやりとりがとても楽しい。なんだかんだと明るい方へ、若者らしく進む。演奏しているときの楽しそうな姿に和む。逆にこの屈託のなさがいまでは新鮮に映る。ここ最近ではなかなかお目にかかることのない、無邪気な若さがある。

昭和の邦画は、なんだかいまにないものがたくさんあって、妙にきらきらしている。

もちろん携帯もないしなんだかやたら殴り合ってるし(この作品はそんなシーンはないけど)、やたらタバコ吸うしで、あの時代にタイムスリップしたい、なんてまっぴらごめんなんだけど、人が人を極端に怯えることのない世界。SNSのなかった世界の物語。多分そのあたりが、風通しの良さの一つなんだろう。

最後の大団円での歌唱。きっと映画館を出たら、さっぱりした気分になるに違いない。

スペクタクルはないけれど、気持ちを切り替えてくれる佳作である。

(カクヨムより転載)