きたはら邦画

午前0時の旧作日本映画案内

『土佐の一本釣り』(1980・松竹、キティ・フィルム)

併映の『寅次郎かもめ歌』のマドンナが伊藤蘭。こちらのヒロインがスーちゃん。キャンディーズ二本立だった。ツッパリ見習い漁師としっかり者の女子高生の初恋に、前田監督は父親的視線を注ぐ。東映からあの方々も登場。途端に画面に緊張が走る。

ラピュタ阿佐ヶ谷ホームページより引用)

 

監督:前田陽一

出演:加藤純平/田中好子/蟹江敬三/樹木希林/宍戸錠/加藤武

 

みずみずしい映画を観た。中学を卒業し、漁師になることにした加藤純平(これがまたなんともいい顔というか、地方の生意気ながきんちょって感じで作品にぴったり合っている)。幼なじみの田中好子のことが好きで好きでたまらない。
漁から帰って会いたいのは田中だ。海の男たちは長い船の生活のなかで、やはり会いたいのは女、である(途中蟹江敬三が逃げられた嫁を想って半狂乱になるシーンがある)。
娼婦は抱いても素人の女は一人だけ。加藤は田中と愛し合うことに(前夜の二人のイメージトレーニング、そして学校サボって警察に補導され、モーテルまでの流れがコミカルで最高)。
しかし、二人はすれ違い(エロい漁師の嫁さんに加藤が誘惑されたと勘違いしたり、田中がやめも男の世話をしたり)、あるとき琴平に漁師一行が出かけたとき、ヤクザと一悶着。それを知った田中は、加藤の無事を神様に頼むため、その集落の伝統を……。
船員たちも土佐の人々も優しい。こんな場所で、若者たちは伸びやかに生きていく。
観わってこんなにすがすがしい気持ちになるなんて!
いまどきありえない男尊女卑世界観ではあるんだが(笑)。

『おひとりさま 三十路OLの性』(2008・ネクストワン)

村上春樹の小説『アフターダーク』に触発され監督自身が脚本を書いた本作は、暗い退廃と残酷な暴力の匂いが漂っている。既に監督デビューしていた黒川幸則やカジノが演出部として協力している事や、日活の若手編集部の参加にも注目。

ラピュタ阿佐ヶ谷ホームページより引用)

 

監督:工藤雅典
出演:友田真希/寧々/藍山みなみ/那波隆史/飯島大介

 

どこらへんがアフターダークなんだろうな、と思って観ていたら、たしかにこれは!

再開発事業に関わる女はかつて上司とデキていた。しかしいま、上司は同僚と……。

そしてポン引きの男と運命的な出会いをすることに。売春をしていると誤解され抱かれたとき、彼女は「自分を理解してくれる」と直感的に感じる。会いたければ売春して金をよこせ、といった男の言葉をまに受け、彼女は……。そして多発する暴力行為をし、相手の肌に傷をつける男の正体は……。

たしかに全体のムードは暗い。いや、エロってほの暗いものだったりするんだけれど、そういうレベルでなく、暗い。東京の闇のようだ。

そしてラスト、夜明けはやってくる。

女は結局「理解者」を手に入れることはできず、男は逃げようと部屋に戻ると、情婦がヤクザに……。

 

『進め!ジャガーズ 敵前上陸』(1968・松竹)

ビートルズ『HELP!』をベースにしたナンセンス喜劇。中原弓彦小林信彦)が脚本協力。007、『第三の男』、レオーネ、ゴダールと映画パロディ満載。後半、突如日本兵の生き残りが登場。途端、戦争映画と化すのに唖然。終幕までお遊び精神横溢。

(ラピュタ阿佐ヶ谷ホームページより引用)

 

監督:前田陽一

出演:ザ・ジャガーズ/中村晃子/尾崎奈々/てんぷくトリオ/南道郎/三遊亭圓楽

 

2023年4月のラピュタ阿佐ヶ谷は、前田陽一監督特集でした。

www.laputa-jp.com

 

にしても、とりあえず一本観ようかな、くらいのぬるいテンションだったんですけど、前田陽一監督、最高です!

大人気のジャガーズ、コンサート終わりに間違ってシンちゃん拉致られる!

金塊の取引!? なにそれ? そしてちょうど入ってきたボンクラベルボーイの伊東四朗の二人は、謎の組織に追われることに!

なんだか謎の妨害をされ、ジャガーズたちも危ない目に。リフレッシュに雪山にいったときに芽生えた恋、そして愛する人の死。絶対に許さないと悪の本拠地硫黄島へ!

 

とあらすじを書くだけでは面白み伝わらないですよね。なにはともあれ悪党どもが愉快愉快、刑事? でナルシスト(なぜ『星の王子さま』読んでんのw)な若かりし三遊亭円楽

シンちゃんを想う、露骨な中村晃子さん!(しかもめちゃキュートじゃん)

とにかくキレたやつはいないがくわせものばかり!

あらすじにあるように後半謎に戦争ものに! 最後は悪役が気狂いピエロ的自爆! それ以外にもネタ多数(ちょうどシネマヴェーラ小林信彦の『世界の喜劇人』発売記念特集やってました!)。

 

いや〜舐めてました。最後に登場人物たちが上手から下手へ移動しながらのキャストロールもかわいい。ていうか露骨なロケ地讃歌にCM的うどんつゆ推し。笑った!!

 

『巨乳熟女 本番仕込み』(1993・獅子プロダクション)

(改題:菊池エリ 熟女の時間で…イッて!)

ビデオの「シスターL」で人気を得た元祖アイドルAV女優菊池エリ。バブル時代の女性を象徴するようなボディコン姿が眩しい。当時、批評家として頭角を表し始めていた切通理作が脚本。エクセスでは数少ない、伊藤猛の出演も貴重。

ラピュタ阿佐ヶ谷ホームページより引用)

 

監督:橋口卓明

出演:菊池エリ/井上あんり/伊藤清美/伊藤猛/山口健三/中川あきら

 

ラピュタ阿佐ヶ谷のエクセスフィルム特集である。

毎度のことながら、なんちゅ〜タイトルだ(改題も)と思うのだが、やはりタイトルに騙されてはいけないといいますか、かなり面白かった。

夫は海外赴任、自分も近日中に夫の元へ向かう予定の人妻が、友達に頼まれ会社のセクハラ早漏上司を退治(会議に乗り込む!)。大成功したら、今度は友達の友達の悩みも解決して欲しいといわれる。

というのも、旦那の浮気を疑っていて、女遊びをさせないように、誘惑して、ホテルにいって、旦那に睡眠薬を飲ませて、とっちめろ、というのだ。

さて、まんまとホテルにしけ込むが、睡眠薬が効かない! で、、、。

さて、ミッションは失敗だったはずが、実はまさかの友達が……。

後半の展開に「おお〜!」。最初の早漏上司も再登場、そして忘れられないセックスをした男との、、、。

と盛りだくさんで面白かった。

そして今回面白かったのは、舌。

画面にアップででてくる絡み合い、そして、舐めるときの動き!

いやー、ぞくぞくしました。

『逆境を乗り越えた大女優 高峰秀子の美学』

東京タワーで開催された、高峰秀子さんの展示にいってきました。

基本展示内容は撮影不可ということでちょっと残念。

https://www.takamine-hideko.jp/exhi

www.takamine-hideko.jp

高峰さんの著作を読んだ人はわかっていると思うのですが、高峰さんは幼少期に映画出演してからずっと第一線のスターとして映画界におりまして、本人は辞めたいとおもっていたけれど、家族の家計を支えなくてはならない(これもまたエグいんですよ)と女優を続けてきた、と。夫・松山善三さんと結婚するまでの苦難ぶりを、著作からの文章を交えて紹介しています。そしてさまざまな映像の抜粋が、とにかく楽しい!

「うわ〜かわいい〜!」「うわ〜!素敵〜!」が満載。この輝きの裏にあった逆境に、涙。

高峰さんの書斎やダイニングテーブルまわりの再現や、松山さんとの写真に、涙。

なんだか物販コーナーにたどりついたときには、ちょっともうおかしなテンションになってしまった(笑)。

思わずクリアファイル買ってしまった。

 

東京タワー、海外の観光客のみなさんがたくさん。どんどん展望台のほうへ。

高峰さんの展示は、夜にいったら落ち着いてゆっくり観ることができました。ゴールデンウイーク(5月6日)まで開催中ですので、ぜひ!

『ファンキーハットの快男児 2千万円の腕』(1961・東映)

ご存じ天下探偵事務所の一郎と相棒の茂も大の野球ファン。特に茂は最近、後輩に当たる若葉高校の川原投手の自慢ばかり。プロのスカウトに二千万円の値をつけられた川原の話に流石に辟易した一郎は、気分転換にコンサートに。その会場で美人のスポーツ記者・美矢子を見つけて、ちゃっかり隣の席に座り込んだは良いものの、その席は実は美矢子の見合い相手の席だった。しかもそのお相手である玉腰整形外科のインターン・西沢が溺死したという。西沢の死因を疑問に感じた天下探偵事務所の探偵長・清助だったが、そんな時、川原投手が行方不明になったという連絡が入り、川原の捜索を依頼される。一郎は川原の失踪と西沢の死に関連があるのではないかと危惧する。そしてそれは、加熱するスカウト合戦から起きた事件であったことが判明していく…。

(Prime Videoより引用)

 

監督:深作欣二

出演:千葉真一/花澤徳衛/中原ひとみ

 

さて、『ファンキーハット』の二作目。今回も天下一郎(なんと漫画な、そしていい名前)が大活躍である。

高校野球で大活躍したピッチャーはどこのチームに所属するのか? 探偵事務所が大騒ぎのなか居所を探せとの電話依頼を千葉ちゃんは受けることに。そして新聞記者中原もまた追っていた。謎の水死体、そして誰かを轢いたはずだと言い張るタクシー運転手(顔がもうガン決まり)、なにやら繋がっているらしい。

ピッチャーは、実は東京にいない? 戦いの場は、地元の軍艦島へ! 

事件解決、そしてガールフレンドもゲットする。調子いいけどやるときゃやる。

冴えない時に千葉真一が効く。

『ファンキーハットの快男児』(1961・東映)

ニュー東映ホープ千葉真一の主演作!官庁ビル建設に絡まる贈賄汚職が幼児誘拐事件を呼び、若い探偵が謎を追って活躍する!深作欣二監督によるスリルとサスペンス漲りユーモアを織り交ぜた青春痛快アクションドラマ!

(Prime Videoより引用)

 

監督:深作欣二

出演:千葉真一/花澤徳衛/中原ひとみ

 

気軽な気持ちで観たら、とんでもなく面白かった。

お父さんが探偵、の千葉ちゃん、ナンパした中原ひとみは株に夢中。

そんななか、某社長のお子様が誘拐された。

株情報を聞き出そうとやってきた中原は犯人と誤解されてしまう。

そうこうしているうちにご子息は帰還。

身代金が重要だったのではない、どうやら株の買い占めをしているやつがいるぞ?

 

かなり軽薄な千葉真一がかわいい。そしてやっぱり動きはキレッキレ!

『惜春鳥』(1959・松竹大船)

若者達の友情や挫折を描いた名作の多い山田シナリオを思わせる、木下脚本の青春群像劇。顔を揃えた気鋭の若手俳優達も素晴らしい。

神保町シアターホームページより引用)

 

監督:木下恵介

出演:津川雅彦/川津祐介/小坂一也/山本豊三/石浜朗/有馬稲子/佐田啓二

控えめにいって、最高だった!

車内から始まる。川津と佐田は田舎に帰るところ。東京で川津は女がらみで問題を起こし、佐田もまた芸者との駆け落ちが失敗した。

川津が帰ってくると、仲間たちが集まってくる。五人はそれぞれの暮らしや悩みがある。

あるとき川津がそれぞれに金を貸して欲しいと持ち出すが……。五人の青春グラフティ(一部ではBL的、ということらしい。まあこいつら、なんでか風呂場でもくっつきあってるしなあ)と、佐田と芸者・有馬の物語が交差する。

川津は実は東京で詐欺に手を染めていた。一番慕っていた足が不自由な山本が、警察に捕まる前に自首してもらいたくて、街を足を引き摺る姿に泣く。

貧乏士族家系の石浜に婿養子の話、津川の決心、川津が自分の大切な腕時計を盗んだことに気づき涙する小坂。それぞれが最高なのだ。

白虎隊の剣舞をかつてした頃より大人になった五人。ほんとうの大人になる季節を迎えようとしている。

ああ、ほんとうに、最高だった。

www.youtube.com

『藍より青く』(1973・松竹大船)

昭和19年の天草で、校長の娘と徴兵間近の漁師が愛を貫く。山田が手掛けたNHK連続テレビ小説を原作に、森﨑流で描く戦時下の純愛。

神保町シアターホームページより引用)

 

監督:森﨑東

出演:松坂慶子/大和田伸也/佐野浅夫/赤木春恵/尾藤イサオ/三國連太郎

困った。最高だった。

冒頭から謎の男たちの寒中水泳対決! なぜ? と思ったら、松坂慶子のため!?

漁師の頭領の息子大和田は松坂を愛していた。相思相愛である。しかし大和田は半年後戦地へ。結婚を躊躇するも、松阪の真剣な想いにふたりは結婚を決める。

しかし問題は松阪の父、三國である。どうしたってうんといわない。松阪の家出の果て、二人の結婚を認めることになるが、しかし大和田は再び、「結婚していいのか」の悩む。

大嵐の日、海へ一人出てしまう大和田。無事なのか? 夜明けに松坂は、大和田の船の音が聞こえる、と走るが。

 

もともとが朝ドラということで、全員憎めない。天草の漁師たちの友情、大和田の朴訥とした魅力、そして松坂慶子!!

若者たちの兄貴分の田中邦衛が最高である。それ以上に三國が!

妻を早くになくした三国は、松坂が未亡人になってしまうのがしのびないのだ。そして戦地に若者を送り出すときの言葉と想いの矛盾に引き裂かれている。

松坂が家出したとき、怒鳴り込みにいく三國、最高。そもそも完全な人間でない感じ、飲んでだらしなく横になったり、山田太一の作ったキャラクターたちは、みんな、弱くて、悲しくて、身近だ。

 

こうなってくると朝ドラも観たい。あらすじを見ると、え、未亡人になっちゃうの!?

 

『歌え若人達』(1963・松竹大船)

学生寮で暮らす青年達のままならない日常――。山田が自身の経験をもとに描き上げた苦々しい青春ドラマを、師匠の木下が軽やかな喜劇調で映画化。

(神保町シアターホームページより引用)

 

監督:木下恵介

出演:松川勉/三上真一郎/津川雅彦/山本圭/川津祐介/倍賞千恵子/岩下志麻

 

いやーめちゃめちゃ面白かった。

大学生四人のさまざまな想い、なんだか絶望している松川、チャラい川津、実家の期待に押しつぶされそうな三上、そしてウザい山本(笑)。

 

松川がビルのガラス拭きのバイトをしているとき、雑誌の表紙にスカウトされ、そのままテレビドラマの主役に抜擢!

なんだかわけのわからぬまま人生がひらけていく松川。川津のほうはわりと裕福で順風満帆だったはずなのに、家族が破産・そしてガールフレンド達には振られてしまい。

ラスト、友人の成功を素直に祝える成長と、生きることの厳しさを予感しながらも笑顔の一同。絶品の青春映画だった。

 

にしても木下恵介のユーモア(学生寮でやたらドアにぶつかったり、松川の掲載された週刊誌がぞんざいな扱いを受けてたり)、山田太一のセリフのキレと、構成のうまさ(悩むやつは高いところからものを落としたがる! 最高!)。

 

なんか、いいな、生きてるってとか思っちゃったり。これってなかなかすごいことじゃないか? どう思わせるなんて。

 

そうそう、野心ある女優役の岩下志麻さん、かわいかったです! 松川勉の自然? 棒読み? 具合とあいまって。

 

Youtubeではレンタルされてるみたい。ぜひ!

 

www.youtube.com